残された私はドロドロの流動体と化した鍋の中身を眺める。煮溶けてしまった物はもう今更戻せない。ため息を一つついてから買っておいたバケットを切るために取り出す。
 作り方としてはカレーと大差ないので、シチューも数少ないまともに作れる料理のはずだったのにちょっと考え事をしていただけでこの有様だ。

 寝込んで以降、無理していた自分を反省したのか、まっちゃんの帰りは少しだけ早くなった。家に帰っても私を先に就寝させて深夜まで仕事をしていたりするのは相変わらずだけれど、最近はちゃんと家で一緒に食事をして、先に入浴も済ませておいてからパソコンに向かっている事が多い。

「また見た目はともかく……味は別に悪くないよ」

 溶けた人参のせいで『ホワイト』ではなくなったシチューを木製スプーンで口に運びながらまっちゃんが慰めてくれる。

「そりゃ食べれなくはないけど、シチューというより野菜のポタージュみたい……いつまで経っても成長しなくてごめん」

 変な物を入れた訳でも味付けに失敗した訳でも焦がした訳でもない。なのでもちろん食べれない程酷い代物ではなかったけれど、食欲をそそる見た目には仕上がっていないのが紛れもない現実だ。

「具材が一体化してるとこうして付けやすくていいじゃん」

 トーストしたバケットをシチューに浸して食べながら、まっちゃんはそう言って笑った。
 気を遣わせてしまっているのが分かるので、それ以上自分の不甲斐なさを愚痴るのはやめておく。
 結局まっちゃんは煮溶けたシチューをおかわりまでしてきっちり完食してくれた。余った分は朝食に回すと言う。