妻子持ちだというのが発覚したのは、私が友人達と飲みに行こうとしていた時にすぐ近くを彼が家族連れで歩いていたからだった。確かまっちゃんは仕事で来れなかった時のはずだ。合コンはサークル仲間の同期の女の子のツテだったので、その日のメンバーにも彼を見知った面子がいて、大騒ぎになった。こちらに気づいていなかった彼に、皆の勧めでその場で即妻子がいると知った事と「これ以上会う気はない」というメッセージを送る事になり、当然その日の飲み会は私を慰める会に主旨が変わった。正直恋愛感情にまでは至ってなかったので特に執着はなかったし、正式に付き合い始める前に分かって良かったとすら思っていたのだけれど、そんな私以上に周りの方がヒートアップしていたくらいだ。
既婚者である事が発覚してそれを指摘した以上、もう会うつもりもなかったしそのまま連絡が途絶えるかと思っていたら、怒涛の弁明メッセージが届き始めた。無視していてもしつこく送られてきた上に、会社帰りに待ち伏せされて腕を掴まれた時にはさすがに私も少しゾッとした。最初は振り切って逃げたけれど、その後もメッセージ攻勢は続いた上に家の近くでも待ち伏せされ、最終手段として弁護士をやっているよっしーに間に入って話をしてもらった。エスカレートするなら警察に話すし法的手段に訴えると言った途端に、ストーカー行為は収まった。さすがに家族に発覚するのはまずいと思ったらしい。
だから別に襲われたという程の事じゃない。心理的に気持ち悪かったのは事実だけれど、腕を掴まれる以上の事は何もなかったし。
「すぐに片付いたし別に言う程大した事じゃなかったんだよ」
読み難い表情でこちらを見るまっちゃんにひらひらと手を振る。
「まあでも待ち伏せされたりって中々ない経験だからネタとしては面白いよね」
「アホか」
ヘラヘラと笑う私の科白をまっちゃんは一刀両断した。
世話焼きな彼の事だ。リアルタイムでこの話を知っていたら、危機管理意識が低いとかこんこんと説教されたかもしれない。既に終わった話のせいかそれ以上は何も言ってこなかったけれど。


