「私、お母さん達に報告してくる!」

「え、待っ……」

 止める隙もあらばこそ。
 玄関に飛び込んでいった彼女が『たった今ちぃちゃんが彼氏にプロポーズされたー!』と事実とは異なる情報をリビングにいた両親にぶちまけてしまい、三十路を迎えるというのに結婚しそうにないどころかろくな恋愛をしていない娘を内心気にしていたらしい二人が泣きながら喜び始めてしまったので、今更あの発言は本気じゃなかったとか冗談だったなんて私は言えなくなってしまった。

 まっちゃんが結婚しようと言い、向こうの両親もうちの両親も内心子供に結婚して欲しかったと言うんだから、そこからの展開はそりゃあもうビックリする程早かった。

 式はやらなくていいと思っていたのに、娘の晴れ姿がどうしても見たいと両親に訴えられ、結局お互いの近親者のみの食事会を兼ねた結婚式を行う事になった。親の希望とまっちゃんの仕事の都合を考慮した結果、式は三月末。まっちゃんが結婚しようかなんて言い出してから、たった三ヶ月しかなかった。しかも年度末に向けて仕事が忙しい彼に代わり、うちの親や香澄が殆どの打ち合わせに付き添ってくれて、場所が決まりドレスが決まり、どんどん話は進んで行った。新居はまっちゃんが何とか空けてくれた休みの日に二人で決めに行ったけれど、その日色々回った最後に不動産屋がわざとらしく提案してきた他より少しだけ家賃が高い好物件が気に入って、すんなりとそこに決まってしまった。
 いきなり急流に引きずり込まれ、あっという間に流され転がされまくった気分。

 ちなみに来月の週末に香澄の彼氏がうちの実家へ挨拶に来るらしい。
 妹が私の結婚を親と一緒になって猛プッシュして慌ただしく式を挙げるのに色々協力的だったのは、三十路を迎えるのに結婚の気配がなかった姉を心配してだと思ってたけど、実はもう一つ別の理由があったという事だ。別に私自身は順番なんて気にしないのに。