「……何もなかったからね?」

「え」

「夜中に起きたらまっちゃんがお風呂の中で爆睡してて、そのまま放置出来ないからどうにか寝室まで連れて行ったの。バランス崩して倒れちゃって、でもまっちゃんが起きないし抜け出せなかったから朝までそのままだったってだけ」

 でもやっぱり、嘘を吐いてまでの駆け引きなんて私には向いてない。実行したとして、その嘘を吐き通せる自信もなかった。
 どんな顔をするかは見てみたかったけれど、一度騙してしまうともう「冗談だよ」と言っても元の私達には戻せない気がするから。結局私もぬるま湯の関係から踏み出す事の出来ない臆病者なのだ。

「なんだかんだ私も寝ちゃったから別に大丈夫」

 ダメ押しでわざとらしく口角を上げて笑ってみせる。ただの事故を強調する、気にしてないふり。

「でも重かったんだからしっかりしてよねー。潰れるかと思ったわ」

「……そっか……。ほんと、悪かったな」

 安心したのか頭に手を当ててまっちゃんが大きく息を吐きながら眉を下げた。

「お風呂で寝るなんて溺れたりしたら危ないし、風邪ひくよ。忙しいのは仕方ないけどあんまり無理しないで」

「ああ、今教育実習生も来てるからバタついてるんだよ。もう少ししたら落ち着くと思う。……そしたら」