多分何も覚えていないだろうまっちゃんに説明する暇はなかったけれど、あれは完全な事故だ。
 昨夜はいつもの様にまっちゃんの帰りが遅く、翌日が休みの為珍しく少し残業をして疲れていた私は、彼の帰宅を待たずに先に眠ってしまった。
 何となく目が覚めた時、隣のベッドにまっちゃんの姿はまだなかった。水でも飲もうかとキッチンに行く途中で、洗面所の明かりが点いている事に気づき、湯船に浸かったまま寝てしまっていたまっちゃんに気づいたのが午前一時半。
 慌てて起こして浴室から出したけれどまっちゃんはフラフラで、身体の水滴を拭うのもそこそこに脱衣所に座り込んでしまったので、仕方なく私が支えになって寝室まで引きずっていったのだ。着替えさせるのまでは無理だったし、寝室まで歩く時もまっちゃんの力が入ったり抜けたりするのでその度に私ごとふらついて廊下の壁やドアに何度も肩や足をぶつけて痛かった。
 寝室でまっちゃんのベッドにとりあえずその身体を投げ出そうとした時にバランスが崩れ、勢い余って私が下敷きになってしまった。意識をなくした成人男性の身体はとても重く、約三十センチ身長差のある私ではとうていはねのけられるわけもない。
 密着具合や顔の位置の近さや不慮の事故とは言え全裸を見てしまった事に、最初はかなり焦って身動き取れないままにバタバタしていたけれど、まっちゃんは完全に寝入っていて何の反応もなかった。その為段々焦っている自分が滑稽に思えてきて最終的には開き直り明け方になって寝落ちてしまったのが今朝の真相だ。
 ちゃんと説明しようと思っていたのに、少し驚いた様子を見たせいでちょっとからかうつもりで勿体つけていたら話す前にまっちゃんは出勤してしまった。
 まっちゃんはあの状況をどう思ったんだろう。まさか自分の意識がない状態でどうこうなったとまでは勘違いしないと思うけれど。

 歩いていると右側に続く生け垣の向こうから賑やかな声がする。
 周囲に人気がないのを確認して、私は鞄からコンパクトミラーを取り出し、自分の姿を簡単にチェックした。服装もメイクも髪も、特におかしな所はないはずだ。