「……あー!!」

 いやだって。三十路で独り身なら結婚しよう、なんてあれはネタとか冗談みたいなもので。さすがにそんなノリで人生の伴侶を決めていいわけないだろうというか、別にそこまで本気じゃなかったというか。世間でも晩婚化が進んでて仲間内でも未婚がまだまだいたせいか、そこまで焦ってもいなかったし。
 別にあんな昔の口約束に無理に義理立てしてもらわなくてもいいよ、と笑いながら言おうとしたその時だった。

「俺も結局独りのまま三十一になっちゃったけど、親も実は期待してるみたいだから。……しまさえ良ければ結婚、しようか」

「……え?えええええっ?」

 あの約束なかった事にしよう、とかじゃなくて?
 驚き過ぎて咄嗟に返事が出来なかった。結婚しようかなんて言われるとは思ってもいなかったので当たり前だ。

 そして本当に間の悪い事に、たまたま同じ様に友達と会ってたとかで駅から徒歩で帰って来たうちの妹香澄が車のすぐ横にいて、このまっちゃんの問題発言をしっかり聞いてしまっていたのだった。

「……ちぃちゃん!」

「わ……香澄?何でそこに……」

 車の側の暗がりに立つ香澄に気づいて私が慌てて助手席から出ると、彼女は目をキラキラさせながら両手を胸の前で組んで、私とまっちゃんを交互に見つめている。

「おめでとう!」

「は?!」