この期に及んでこんな事をグルグル考えてしまう辺り情けないとは思うけれど、いっそ退院してきた日に勢いでどうにかなってしまった方がマシだったんじゃないだろうか。まああの日は怪我もあったしどうしようもなかったのか。てかそもそも怪我してなかったら病院での告白もなかった訳で。

 コーヒーを買って戻って来た片山さんは、私が眉間に皺を寄せて液晶を睨んでいるのを見て残業のせいで機嫌が悪い様に見えたのか、更に焼き菓子を更に一つデスクの引き出しから取り出して追加してくれた。完全に誤解だけれど、折角なのでありがたく頂戴しておく。
 今食べる気にはならなかったので私はそれを鞄にしまった。丁度二つあるので明日まっちゃんとお茶を飲む時にでも食べよう。ゆっくりリラックスすれば緊張も解れるかもしれない。
 ただ買って来てもらったばかりのカフェモカでは今の所、構え過ぎな頭と身体を解く事は出来そうになかった。


*   *   *


 玄関の鍵を開けるその一瞬前まで、私は全く予想もしていなかった。
 だって病院に寄るって聞いてたし。私の方が遅く帰宅した事なんて今までだって数える程しかない。数少ないそれも締め日前でかなり残業した日とか、会社の宴会や友達と飲みに行ったとかで遅くなった日くらい。
 なのにまさか、まっちゃんの方が私より早く帰ってるなんて。

「お、千晶おかえりー」

 私が玄関のドアを開けたタイミングで丁度洗面所から出て来たまっちゃんが、タオルで濡れた髪を拭きつつ出迎えの声を上げる。さっぱりした表情の彼は既にTシャツにハーフパンツという部屋着に着替えていて、どう見ても入浴済みだ。あちこちに貼られていたガーゼの数も減っている。

「え……ええ?」