「全く片山さんにも困ったもんだね……今日は残って大丈夫なの?折角の金曜なんだから旦那さんと外食デートとかあるんじゃない?」

「ないですないです。それにこれ別に何時間もかかる程の量でもないし、終わったらすぐ帰りますから」

「そう?ならいいけど……お疲れ様ー」

「お疲れ様です」

 出て行く糸井さんを見送ってから処理に取り掛かる。数字をテンキーを使って入力していくのは無心で出来る単純作業だから嫌いじゃない。

 あれから一週間、また週末がやってくる。
 まっちゃんは今週末は部活で学校に行く予定はないと言っていたし、そろそろ本当にベッドを動かす事になるのかもしれない。まだ傷や痣の跡は残るものの、打撲の痛みは落ち着いたので普段通り生活できるようになってるし。
 この一週間、ずっと同じベッドで寝てるかと言えばそんな事はなくて、休んでしまった分私もまっちゃんも残業したり持ち帰った仕事があったりで、結局今週は中々布団に入るタイミングが合わなかった。

 期待半分、怖気付いて逃げ出したくなるような気持ちが半分。
 過去の恋愛で「あ、そろそろ一線を越えるな」という時は何となく分かった。いつもより肌の手入れを丁寧にしてみたり下着に気を遣ったり、そしてデートに向かう時やその間中、照れ臭さと淡い期待と相手に対するときめきが混ざって嬉し恥ずかしむず痒くなる経験はきっと誰にでもある。それでも今まではここまで逃げ出したくなるような緊張感はなかった。
 まっちゃんの事が好きだ。そこは自信を持って言えるし、実際本人にも伝えた。でも多分私は「女」としての自分を全開で見せて、まっちゃんの中の私の評価が下がるのがまだ少しだけ怖いんだ。友人として気が合うのも一緒にいて楽しいのも今更疑いようはないけれど、恋愛相手として向き合ってみたら何か違うと思われたら、最高の友人としての評価すら失ってしまうんじゃないかなんて。