もう無関係とか言ってる場合じゃなかった。ざわつく野次馬の間をすり抜け、倒れたままのまっちゃんに走り寄る。

「まっちゃん、分かる?!」

 呼びかけて見ても返事はない。
 右のこめかみに傷があって、そこから血が流れ出していた。ゴミ箱の角か何かにぶつかって切れたらしい。血で汚れているせいで傷の大きさや深さは分からない。意識がないのは脳震盪か何かだろうか。
 偶然の事故だし大事ではないとは思いたいけれど、ちょっとぶつけただけでも頭部は打ちどころが悪かったらどうなるかなんて分からない。自分でそう考えた瞬間に背筋がすっと冷たくなった。
 何変な想像してるんだ、私。そんなの絶対に有り得ないし。

 野次馬なのかサービスエリアの従業員なのか、救急車とか警察とか周囲がざわついている声が聞こえる。
 揺さぶったり起こしたりするのはよくないだろうと思ったら、結局傷口をハンカチで押さえる事くらいしか出来なかった。押さえた部分にジワジワと血の色が滲んでいく。高校の授業と自動車学校で応急処置のやり方は簡単に習った気がするけれど、いざという時にきちんと思い出して対処なんて出来ない事を思い知った。自分がやっている事が正しいのかどうか、止血になっているのかさえよく分からない。
 頭の怪我は傷の程度以上に出血が多く重傷に見えると聞いた事があるし、きっと大した事はない。唇を噛んで自分にそう言い聞かせる。
 顔を上げると中村君は倒れたまっちゃんを見たまま呆然と座り込んでいるし、殴った方はさすがに流血して倒れたまっちゃんを見て焦ったのか仲間内で何事か囁き合っていた。そこにようやく誰かが近づいて行って声をかけている。
 遅いよ。こんな事になる前に誰か止めてくれれば良かったのに。自分もただ見ている事しか出来なかったのを棚に上げて、私はそんな事を考える。