申し訳ない、なんて顔をさせたくない。一点の曇もなく、幸せ一杯に旅立って欲しい。寂しいと思うのと同時にそう思うのも、やっぱり心からの真実だ。

「今更俺の前で強がる必要はないって。泣きたい時は思いっきり泣けばいいよ。でもとりあえず俺はどこにも行かないから千晶が『一人』になる事はないし、そこだけは安心しなさい」

 一度緩んだまっちゃんの腕が、もう一度私の肩を少しだけ引き寄せる。
 笑っちゃうくらい、クサい科白。でもその言葉は的確に私の心の一番弱い部分を突いて、もちろん笑うなんて出来ないどころか、もう一度涙腺が緩みそうになった。まっちゃんは私が何に怯えているかを知っている。

「言っただろ。歳取っても環境が変わってもつるんでようって」

 確かに言われた。
 皆で温泉に行った日。風呂上がりの火照りを外で冷ましながら、年々集まりが悪くなる事をまっちゃんに愚痴った時だ。私が恋愛下手だという話から、そんな方向に流れていったんだっけ。

「あれは……だってあの時は……」

「あの時千晶との会話が決定打で、結婚しようって思ったんだよな」

「ええ?!」

 プロポーズされる、ほんの数時間前の話。
 あの時の私はまっちゃんが同情で慰めてくれていると思っていたし、まっちゃんと結婚するなんて全く想像もしていなかった。むしろこんな事を言いつつ、やっぱり恋人が出来たら今より疎遠になるんだろうなあなんて、口にこそ出していなかったけれど諦めの境地で考えていた気がする。