初恋とコーヒー



「山本?」

「はっ、はい」

「ほら、帰るぞ」


先生はあたしに手招きをして、家までの道を歩き出した



「山本は上杉と仲いいなぁ」

「アイとですか?」

「おぉ、いつも一緒にいるだろ」

「そうですね、アイ面白いんですよ!」



そう言って、あたしはアイとの思い出を話し始める




「アイってば、すっごい心配性なんですよ……あたしがちょっと暗い顔してるだけで『どうしたの!?』って飛んできてくれるし……」


「いいヤツだな!上杉!」


うんうんと先生はうなずいてくれる


「……ホントにアイと友達になれてよかったです」





1年生の時


慣れない高校生活で、友達が出来なかったあたしに


アイは初めて声をかけてくれた




クラスの中心で、明るいアイ

可愛くて、面倒見がいいアイ

笑うアイも怒るアイも


全部大好き



傷付いてほしくない

泣いてほしくない



泣かせたヤツ、絶対許さないんだから!




「大事にされてるから、山本も上杉を大事にしてやんないとな!」


先生はあたしの頭を撫でる


……撫でられるのが好き

あったかい先生


頭の中が先生でいっぱいになる



「……あ、家だ」


先生と話してるうちに、あっという間に家に着いた


「ありがとうございました!」

「いーえ!じゃあ、また明日学校でな!」


先生はぶんぶん手を振る

あたしも手を振り返す



先生がどんどん遠くなっていく





一緒に帰るのは


今日が最初で最後




「先生……っ」


あたしは咄嗟に先生を呼び止めていた


「なんだ、山本?」

「……っ」



言っちゃダメ……

でも……



「明日も……帰って、くれますか……っ?」

「……」



は……恥ずかしい

こんなこと言ったの、生まれて初めて



絶対顔赤いよね……キモいよね、もうどうしよー……




「もちろん!」

「え……?」



あたしが思っていた答えとは


全く違う返事だった



「1人で帰るの怖いもんな!」

先生は「よしよし」とまた頭を撫でてくれる


「ありがとうございます……」


あたしは涙が出そうだった