先生は何も言わずにただ歩いていく



あたしはピトッと先生の背中にほっぺたを付ける



ドクン

ドクン



先生の心臓の音、すっごい大きい



……ううん




これは……あたしの?




耳からは心臓の音

鼻をくすぐるのは、コーヒーのにおい




胸がキュンキュンし続ける





ずっと……ずっとこのままがいい


先生の1番近くに居たい



……あぁ、あたし


どんどん欲張りになっていく







「……す、き」




「山本……?」

「ふぁ……?」




重い目をこすって、あたしは頭を上げた



「山本、家着いたぞ」

「家……」



……家!?



「あっ、あたしっ、寝てた……?」

「うん、気持ちよさそーに」



えぇぇ……!



「ごめんなさい……っ」

「いいよいいよ、それだけ安心してたんだな」

「……っ」



安心……してた




先生の1番近く

先生のぬくもり



あたしは他のみんなが知らないことを知ってしまった



「……山本」

「は、いっ」

「何も……覚えてないのか?」

「……?」



覚えてない……って?



「山本の寝言、面白かったなぁ」

「寝言……!?」



いやぁぁ、恥ずかしすぎる!


「あたし、なんて言ってましたかっ!?」

「……」

「先生……?」




先生はしばらく考えた



そして、あたしを真っ直ぐ見て



「言わない」


と、一言言った



「どっ、どうしてですかっ」

「俺だけしか知らないんだもーん」

「う……っ」




俺“だけ”


胸がきゅうっと締め付けられる



なんなの?この気持ち……


苦しいのに……なんだかムズムズして

先生を見る度に、顔が熱くなる





あたし……っ、まさか




「山本、早く家に入りな」

「はぁい……っ」




まだそばにいてほしい

もっと話したい





「また明日な」

「は……はい!」



また明日

先生に会える



この気持ち……あたしはまだ知らない