紅葉side


「お嬢様、本日のお見合いの件ですが...」

「準備は適当にやっといて。興味無いから」

「それではお相手に失礼ではないかと思うのですが」

私、朝比奈紅葉(アサヒナ モミジ)。

明日から高校生。

朝比奈ホテルグループ社長の一人娘。

いわゆるお嬢様。

高校の入学式は明日なこの日に見合いの予定を入れた父は、やっぱり頭がおかしいんだと思う。

明日はきっと疲れるのに、休む暇もない。


「お嬢様...?」

「何」

「つまり今日のお見合いはキャンセルですか?」

「は?」

困り顔でそう言ってきた私の専属執事の來嶋(クルシマ)に心底呆れた。

誰もそんなこと言ってないわよ。

「誰がそんなことを言ったのかしら?」

「え...先程お嬢様が準備は適当にって...」

その言葉をそう捉えるとは思ってもいなかった。

來嶋は私が生まれる2年程前からこの家にいた使用人で、私が生まれてからはずーっと私についていた。

故に、私のことは私以上に分かっているはずなのに。

「あなた、何年わたしについてるの?」

「えっと...16年?です?」

「煮え切らない返事はしないで」

「すみません...」

全く。なんて頼りない執事なのかしら。

もっと有能なのに変えてもらわないと。

「...とりあえず、相手の方には時間通り参ります、て伝えなさい。いいわね?」

「かしこまりました」

「分かったなら出てって。着替えるから」

「はい。失礼致します」

ため息をついて來嶋に具体的な指示を出した私は、來嶋を部屋から追い出して、箪笥に閉まっておいたお見合い用の振袖に着替えた。