えー!


「リイちゃん待って。早まっちゃダメだよ!」


こんな綿菓子みたいな可愛いリイちゃんに殴られたら、流石の入江くんでも立ち直れないと思う。

きっとリイちゃんのパンチは非力だと思うけど、好きな子からのパンチはダメージが違う。


っていうかそもそも、入江くんは関係ないのに。

とばっちりパンチの威力はいかほどなものなのか……。

きっと通常よりも強大なはずだ。


「なんで澪ちゃん止めるの? 澪ちゃん傷つけられたんでしょ? それって合意なく無理矢理されたってことでしょー? ダメだよそんなの! ファーストキスって一生に一度なのに!」


リイちゃんがプンプンと怒るから、私は昨日からもんにょりと晴れない気持ちが、少しだけ楽になった気がした。


「リイはハヤテちゃんの事だから無理矢理はしないと思ってたんだよー! だから澪ちゃんがキスを“奪われた”って言った時もきっと合意のもとだろうから、なーんだー、そっかー。程度にしか思ってなかったのに!」


天使の顔は険しい。私が思わずおどおどしてしまうほどに。


「りっ、リイちゃん落ち着いて」


私はリイちゃんの口から今にも飛び出してきそうな飴玉の膨らんだ口を警戒しながら、リイちゃんの腕を掴んで席に座らせた。


「ハヤテちゃんってば、どーりで昨日からリイのメッセージを無視し続けてたわけだね! むっかつくー」

「リイちゃん、ひとまず深呼吸してみよう!」


落ち着かせるためにそう言ったのに、リイちゃんの熱はさらにエスカレートした。


「もー、澪ちゃん! 澪ちゃんはなんで落ち着いてられるの⁈」