リイちゃんに抑えていた口を解放されて、私は机に溶けるように突っ伏した。


「正直に話してね♡」


リイちゃんは突っ伏した私の前で、両手をグーにして口元にそれを寄せた。


「話せば長くなるんだけど……」

「うん、いいよー」


私は覚悟を決めて、顔を上げた。


「実は昨日、私のファーストキスが奪われました」

「……えっ? 奪われちゃったの? なにそれ、ハヤテちゃんってばやるじゃん!」


なんでリイちゃんはそれを入江くんがやったと思ったのか分からないけど、入江くんにとっては飛んだとばっちりだ。


「あれ? っていうか澪ちゃん、元彼とはキスしてなかったの?」

「うん。あっ、犬とはしたことあったけど」

「犬は数には入れないねぇー」


リイちゃんはあっさりと犬とのキスはノーカウントだと言われてしまった。

可愛い犬だったんだけどな。


「で、澪ちゃんはどんな気持ちだった?ショックだった?それとも、ときめいちゃった?」

「リイちゃん落ち着いて」


昨日リイちゃんにあげた飴がまだ残っていた事を思い出して、鞄の中から取り出した。

それを差し出したら、リイちゃんは包みを開けて口の中にポーンと放り込んだ。


「結果から言うと、ショックだったの」

「えっ!」


リイちゃんはガタンと音を立てて明日から立ち上がった。

慌てたリイちゃんを見上げると、可愛らしく飴玉を含んだ小さな口が、さらりと毒を吐き出した。


「今からハヤテちゃんを殴りに行こう!」