『かおるくん!』



幼い私は確かにそう呼んだ。


呼ばれた男の子は呆然と立ち尽くして、さしていた傘を水たまりの中に落とした。


その色素の薄い茶色の髪は水を吸って濃く色を変えていく。



『お願い……、助けて!』



その声にハッとしたように肩を揺らした男の子は、あたりをキョロキョロと見回したあと、私がいる方とは違う方向に向かって走り出していた。


腕や腹部に感じる鋭い痛みに、私は防衛本能が働いたのか意識を失った。



次に目を覚ました時には私は見知らぬ土地の病院にいたのだった。