私の小さな声も拾ってくれたらしい、昨日の教科書を見せた男の人――逢坂冬馬くんは、横目で私を見た。


「はよ」


朝は苦手なのか、逢坂くんはその言葉のあとにくあ、と大きなあくびをした。


無視される覚悟であいさつをしたのだが、彼は一瞬で私の杞憂を吹き飛ばしてくれた。



逢坂くんの視線はすぐに自身の手にしたカバンに落とされ、その中身を探り出す。

目当ての物が見つかったのか一瞬動きを止めた――逢坂くんが顔を上げてゆるく手を挙げた。