カランカラン……

「いらっしゃいませ……寺島様。」

『うぉっ、中村めっちゃ元気無いねー笑』

!!!

私は咄嗟に手で悠良の口を塞いだ。
『むごっ、』

「あの、私ここでは«きぃたん»という名前なんで!……ちょっと裏口まで来てください。そこで話すんで!!」

ハァ……もう、全てを話すときが来てしまったよぉ……














喫茶店の裏口にて

「ハァ、ハァ、ハァ…………」
私は極度の焦りで心拍数が上がっていく。

『きぃたーん、大丈夫??』

「あのっ!もうここではきぃたんじゃなくていい!逆に呼ばないで!恥ずかしいし……。」

『え、どっちだよー笑 さっきはきぃたんって呼べって言ったくせにー。』

悠良は口を尖らせていた。

「……寺島君、本当に私のこと全部知りたいの?」
私はおずおずと悠良に聞いた。
すると、悠良は真剣な表情になって
『知りたいよ?だって俺ずっと前から中村のこと知りたいって思ってたから。』

ドキッ、私の胸が高く跳ねた。顔が熱くなっていくのが分かる。でもすぐにハッと我に返って私は言った。

「中村でも妹の方じゃないの?絶対そうだよね?妹の事ならわざわざ私に聞かなくても希唯に聞けばいいじゃない!」

……ちょっと強く言いすぎたかな?いや、これぐらい言わないとこういうチャラ男は聞かないよなぁ…


そう思った時、男子高校生の大きな体が私に近づいてきたかと思うと、壁に腕を当てて顔を近づけてきた。

«え、え!これって...壁ドン?!»

私の顔がどんどん熱くなっていく。心拍数はさっきよりずっと早くなって体の力が抜けていきそうだ。

「ね……ねぇ、寺島君、ちょっと……」

悠良も我に返ったようで一気に私から飛び退いた。

『あっ、いや……ごめん。だけど本当に中村希亜の方をもっと知りたいと思ってる。』

悠良は子犬のような態度で私に言った。
ああ、この人は嘘がつけない人なんだな____。


「分かった。話せることはすべて話すから、聞いてくれる?」

悠良はこくんと頷いた。

そして私は

家族にも教師にも内緒でコスプレ喫茶で働いていること、知っている人はなつめだけだということ、なぜコスプレ喫茶で働いているのか、全て_________





全てを話し終わった時、悠良の顔は悲しそうだった。


私の秘密を全て知った時のこの表情は多分、私自身、忘れることはできないだろう。




いつの間にか、空は暗くなっていた。なつめはしばらく私を待っていたみたいだが、店長に怒られたらしく、ラインに先に帰ったという通知が来ていた。

……1人かぁ…………


そう思ったとき、悠良が
『家まで送るよ。引き止めたのは俺だし。暗いから女子高生が1人で帰るのは危ないよ。』

そう言われて私達は8時21分の電車に乗った。