水浦翔の車は全く変わっていなかった。

水浦邸の第二車庫のガレージがゆっくりと上がり、以前と同じロールスロイスのファントムが静かな音を立てて現れた。

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水浦一郎の専属執事は佐々木さんという人だったが、水浦翔の専属は古川さんと言ってまた違った人であるようだ。

私と梓は品定めするように上から下まで見られ、翔を挟むように後部座席に座らされ、4人を乗せた車はこうして発車したのである。

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ようやく車が止まったのは、ちょうど午前9時を過ぎたころで、てっきりアローグループ本社に行くものと思っていた私は度肝を抜かされた。

グループ直営のホテルだったのだ。

古川さん曰く、水浦翔はここのオーナーを任されているらしい。

道理で本社で会うことも少ないわけだ。

私たちの仕事は、オーナーとして働く彼の周りを固める引っ付き虫になれということだった。

ただ、このホテルは何しろでかくて広い。

トイレの場所を覚えるだけでもまる1日はかかりそうである。