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「重ね重ね、有難うございました。」

結局の所、その彼は送り狼でも何でもなく、ただの非常に好感の持てる男性だったのだ。

上から目線でも何でも、私は一度でも彼に嫌みを言いかけた事を後悔した。

彼がいなかったらきっとずぶ濡れで帰っていたに違いない。

そんなことをぼんやりと思っていた私は、ついついこんな事を口走ってしまったのである。

「あの、お礼、させてください。本当に親切にしていただいたのに、このままだと私が落ち着きません。」

「お礼を言われるほどの事でもないですよ。」彼はまた、あの極上の笑みで言った。

「いえ、私がこのままだと嫌なんです。今日はもうおそいですから、今度お茶でもしにいらして下さい。ご予定はいかがですか?」

言ってしまった。