「ケーキ屋さんで働きます!」
そう言ったあの日から10年が経った。私はこの瞬間を待ちわびていた。
「おめでとうございます!第1号店ですね!」
「上条さん。ありがとうございます。」
上条さんはこのお店を開くにあたってなんでも協力してくれた人だ。
「いえいえ。ご両親も嬉しがってますよ。」
「そうでしょうか。」
うちの両親は私が6歳の時に死んだ。交通事故だった…
「シュークリーム買ったよ!今から帰るよ!」それが最後の電話だった。両親の趣味は山登りで年齢的にも体長的にもついていけない私のためにいつもお土産を買ってきてくれた。いつも洋菓子でチョコレートケーキ、クッキー、ショートケーキ、クレープ、マフィン。中でも1番好きだったのがシュークリームだった。
「えーっと、皆さん、お集まりいただきありがとうございます…」
あぁ、泣きそう…
「…これを私の挨拶とさせていただきます。シュー・ア・ラ・クレーム開店いたします!」
今にも涙が止まらなくなりそうなのを必死に堪えてトイレへ急ぐ。
ドンッ!
「す、すみません…」
「いえ、大丈夫ですよ。それより、あなたの方が大変そうだ。」
「いえ、大丈夫です…」
「麻美子。無理すんな。」
え?なんで私の名前…知って…
「覚えてないのか?俺だよ。」

「あ!宗介!?」
「あぁ。」
宗介は幼馴染で唯一両親が死んだことを知ってる。
「でも、海外なんじゃ…」
「帰ってきたんだよ。俺が1番大切にしなきゃって思ってる奴が店開くって聞いて。」
…///
こーゆーことさらっと言うやつだってわかってるし、特別な意味じゃないってこともわかってる…けど…期待してしまう。
「おめでとう!よく頑張ったな。泣き虫。」
「うるさいよ。」
私の頰からは大量の涙があふれ出ていた。

END