バンッ!
「あ、ご、ごめんなさい!」
「いや、こっちこそごめんな。大丈夫?ケガとかない?」
「ないです!大丈夫です!」
はるか頭上から聞こえる優しそうな声を見上げて私の顔は火照っていくのがわかる。
(かっこいい人…)
「そ、そ、そちらは?」
「ハハ!君面白いね。こっちはヘーキだから気にしないで。」
「てつー。どしたー?」
うわー。連れの人すごく不良っぽい。
よく見ればこの人もピアスにネックレスしてるし髪の毛金髪だし、原チャリだし。
「し、し、失礼します!」
「お、おう…」
後ろから聞こえる気をつけてを無視して学校に向かう。
キーンコーンカーンコーン
ふー。ハプニングはあったけどなんとか間に合った…
「し、し、失礼します!」
「お、おう…気をつけて!」
あれ?落し物じゃんか。定期?あの子のか…って帰り困るじゃん!あの制服にあの方向ってことは仁徳(しんとく)学園だよな。終わった後にダッシュすれば間に合うか…?
「おーい!てつー!間に合わねーぞ!」
「おう!今行く!」
あの制服って北次(きたつぎ)高校かな?
近くにあんな不良いたんだ…怖いなぁ。
…でも、あの人の笑顔、すごく優しそうだった。いやいや、騙されちゃダメ。私はあーゆーのとはつるまないの!
キーンコーンカーンコーン
「てつー!帰ろうぜー!」
「あー、ごめん!今日、用事あるから先帰るわ!」
「はぁ?珍しいなお前が用事なんて。さては、新しい彼女できた?」
「バカ。そんなんじゃねーよ。じゃぁな!」
まだいるかな。つか、部活とかやってたら6時になるか。
仁徳学園はこの角曲がったところか。
あ!いた!バス待ちしてんじゃん!…気づいてない?なにで乗ろうとしてんだ?
あれ?ない!定期がない!このバスに乗りたいのに!
「おい!そこの!」
ん?誰?…あー!朝の!
「定期落としたっしょ。あんた、どーやって帰るつもりだったんだよ。」
「ご、ごめんなさい!全然気づいてなかった…」
「はぁ。よかった…間に合って。」
…すごい息切れてる。私のためにこんなに走ってきてくれるなんて。
「ありがとうございます。本当にごめんなさい!」
「あー。いいって。大したことじゃないし。」
「いやいや、赤の他人にこんなことまでさせちゃって本当にごめんなさい。」
「だから、いいって…」
「よくないんです!あ!そだ!なにかご馳走させてください!お礼に!」
「は?なんで?」
「だって、プレゼントとかだと絶対趣味合わなさそうだし、この場じゃ渡せないし、だからといって言葉だけじゃ私の気が済まないので!」
本当はこんな不良と一緒になにか食べに行くなんて絶対に嫌だけど、ここまでしてもらったんだからそれくらいは我慢しないと。
「じゃぁ、お言葉に甘えるわ。」
はい!
おかしな奴…いいつってんのに奢らせてくれとか。どんだけ人に借り作りたくないんだ。
しかもさっきからずっと黙ってるし。実は俺のこと苦手だったりして…ってそうだよな!?俺こんな見た目だし、なのにこいつはめちゃめちゃ優等生って外見してる…
「あのさ、一つ聞いていい?」
「はい。」
「あんたさ俺みたいなの嫌いでしょ?」
「え?」
やっぱりな。
「はい。」
すげーはっきりはいっていったな。
「でも!あなたは違うかも…です。」
は?どういう意味だ?
「いや、私、前まで、あなたみたいな方々はもっと乱暴な口調でもっと不親切なのかと思ってたんですけど、今日、あなたに会ってみて人は外見だけじゃないんだって思ったんです。」
はぁ…なんか拍子抜けした。褒められるなんて何年ぶりだ?しかも女子から…いや、学校ではチャチャ入れてくる女子は少なくない。でも、あれは俺の外見だけを求めてて、それがたまたまはまっただけ。なのに、こいつは…
「あんた。どんだけいいやつなんだ。」
不意に顔を覗かれて心臓が飛び出そうなくらい跳ねた。
「ち、近いよ…それに、私は本心を言っただけで、あなたのためにいったわけじゃないですから。」
「そこは冷たいのね。姫乃綾(ひめのあや)ちゃん」
!?
なんで私の名前!
「いや、定期。」
あ。そっか…
「つか、写真貼れよ。わかんねぇじゃん」
「あ、忘れてた…」
「優等生に見えんのにそうゆうところはしっかりしてないんだ。」

何も言い返せない…
「ほんじゃぁな!気をつけて帰れよ!」
「え!あ、あの!」
「あのー?お客さん乗るんですか?乗らないんですか?」
あ、えっとどうしよう。このままバイバイって言ったらもう会えなくなる。でも、このバス逃したらもう次はない…
あー。終わったな俺、なにしてんだ?いつもなら、このまま一緒にどっか行って適当に家返して終わりだったのに…なんでもう会えないとか残念がってんだ。
「…あの!ちょ、ちょっと!はぁはぁ…」
あ?
「ちょ、ちょっと止まって!」
「はぁ?あんたなにしてんの?」
振り返るとそこには姫乃綾がいた。
「あの!なに食べたいですか!」
トコトコと俺のところに寄ってきて言う。
「何言ってんの?」
「え?だって奢るって言ったじゃないですか。」
「それはもう、断っただろ!」
「でも…」
なんだよその顔。本当に残念そうな顔しやがって…
「わーかったよ!じゃぁ、そこのカフェ!」
「え!?あそこ!?私に合わせないで本当に行きたいところ言ってくださいよ!」
「はぁ!?」
やべ。バレてんじゃん。
「じゃ、じゃぁ、あの牛丼や!」
「はい!じゃぁ、そこに行きましょ!」
はぁ。なんだその満足そうな笑顔。女ってこんなだったっけ?気がくるう…
「何食べます?」
「普通の。卵ありで」
「卵つける派ですか?」
「あ?あー。お前の金だもんな無しでいいよ。」
「あ、いや!そうゆうわけじゃなくて。卵やったことないんですよね。父親が卵嫌いで。」
「あー。そう。」
「すいませーん!卵付きの普通のを2つください。」

なんか、楽しくないのかな?ずっと窓の外みてる。
なんか、話すことねーかな。こんな物静かな女初めてで何話していいかわかんねぇわ…
「あ、あの。お名前。なんて言うんですか?」
「てつ。小堀哲也(こぼりてつや)。」
「小堀哲也くん。」
「そう。」

あー。どうしよう。会話が途切れちゃった…
「失礼しまーす。牛丼卵セットでーす。」
「あ、ありがとうございます。」
「あざっす。あ、紅ショウガいる?」
「うん。ありがとう。」
モグモグ…
やばいよ。なんか話さないと…つまんないって思われちゃう。ん?私、なんでつまんない人って思われちゃダメなんだっけ?これは奢ってるだけで、好かれるためにするものじゃない。なのに・・・

結局、無言で牛丼を食べ終えて出てきちゃった。
「あ、あの。今日は本当にありがとうございました。」
「あぁ。もういいって。奢ってもらったし。楽しかったよ。あ、そうだ。お前さ、バスないだろ?この時間。」
あ!そうだった!どうしよう。とりあえず親には帰りが遅くなるって言ってあるけど…
「う、うん。そうなんだ…」
「学校に原チャリ置いてきちゃって取りに行きたいんだけど、ついてきてくれない?」
「え?」
「…まぁ、そのあと、送ってってやるよ。家どこ?」
「え!?そ、そんな!」
そんなことまでしてもらったら悪いし、第一、私、不良とはつるまないって決めたのに…
「いいから。こんな暗い中女子高生1人で返せるかよ。」
本当に優しい。不良は不良でもそこまで悪い人じゃなさそうだし、げんに今日だって全部私のためにしてくれたし。
「おい。乗るのか乗らないのか決めろよ。」
考えてるうちに目の前には原チャリが止まっていた。
「の、の、乗ります。」
「じゃぁ、これ被って。」
ヘルメット。一つしかないじゃん。
「でも、これ、一つしかない…」
「いいんだよ。被れって。後ろの方が危ねぇから。」
「…そ、それじゃぁ…」
「乗ったら捕まれ。」
「え?どこに?」
「俺の腹。」
え!?だ、だって、今日、会ったばっかで、こんなイケメンで、緊張してんのバレる…
「ほら、早く!…行くぞ。」
「は、はい。」
やべー。姫乃綾の心臓の動きが激しい…
これじゃ。俺まで緊張すんだろーが。
「じゃぁ、これで。」
「お、おう。」
本当に終わりだ。会うこともないんだろうな。
は?なんでだ?なんでまた残念がってる?
「なぁ!」
なんで引き留める?
「また会おうな。」
何言ってんだ俺。
「・・・」
そりゃ引くよな・・・急にこんなこと言われて。
「ずるいです。あんなに優しくして、今も別れづらくして・・・」
「・・・ごめん。すげぇ迷惑だよな。」
「私、不良なんかとつるむべきじゃなかったんだ。」
「あぁ。」
だって・・・だって・・・
「好きになっちゃったから!!」
・・・言っちゃった。引かれるよ。今日会ったばっかの地味女に告白されるなんて。
「・・・ずるいのはお前もだろ。」
反則すぎるんだよ。こんな遊んでばっかいる俺のこと好きになってくれるやつは大体顔で選んでるようなもんだったのに。優しいだのなんだのって・・・
「え・・・」
「俺も好きだよ。お前のこと。」
・・・
「なんで泣くんだよ!!」
「だって!!やっぱりずるいから!」
「はぁ!?」
「だって・・・だって・・・!!」
「あーもういいって!!それ以上喋んな!」
ギュッ
やばい・・・うれしすぎて涙が止まらないよ・・・

~END~