「そんなっ…そんなの知らない!」



「当たり前だろ〜〜お前は旧暦の名を持つ家の生まれじゃないんだから」




「っっっっ………」





「そういうことだから、寺子屋抜け出してまで俺たちを見る必要はないの。
さあ〜帰った帰った〜〜」




翠は依の言葉を理解はしたようだ。
だが、納得はいってないと言った面だ。





「…………たい」


翠は小さな声で一言喋った。
それはあんまりにも微かだったが確実に聞こえた。



「俺、知りたい。
たとえ旧暦の名を持ってなくても、
十二跡の人間として知りたい!!」




「んな無茶な。何の為に旧暦の名を持つ者にしか語り継がれないかわかってんの?」


依が人が変わったように冷めた口調で言う。
依は人を突き放す時はいつもこうなる。


「そもそも、お前が知ったところで何になる?ただのガキだろ?魔法だって並大抵のことは出来るだろうけど、かと言ってそれ以上できるわけじゃない。」



翠は、俯いて口を閉じてしまった。
身震いもしている。
彼も反省しているだろう。
依がこうなると私でも止めづらいのだが。


それでも、見るに耐えなくなる前に止めようと口を開こうとした瞬間。









翠は、顔を上げて真っ直ぐ
依を見据える。
目には力がこもっている。
目尻に涙が浮かんできてはいるが、
弱腰になっているわけではない。


そして、




「そう……だとしても!
俺は、十二跡を支えたい!!
誠一郎様の力になりたい。


俺は、ずっと一人だった。
橘の家に生まれても小さい頃から気が弱くて、いじめられてばかりだった。


でも、誠一郎様はそんな俺を構ってくれて、色んなことを教えてくださった。
そして、家を継ぐには強くならなければいけない、様々なことを知らなければいけない、『俺は皐月を継いで十二跡を平和なままで支えたいんだ』っておっしゃったんだ!!!



それ……なのに…俺が何もできないなんて、そんなの嫌っ、だ、、、」




堪え切れなくなったのか涙が次々に零れ落ちていく。



私もそろそろ限界だった。
無理にでも帰らせようとすると、


「お前、意外と根性あんじゃん〜。」




いつもの調子で依が微笑んだ。