「おっはよー和!!」

次の日の朝、自転車通学の私は駐輪場に自転車を止めていた。

「おはよう、咲希」

いつも通りの挨拶を済ませて、私は咲希の隣に並ぶ。

「今日は早いんだね。いつも遅刻ギリギリなのに」

「まぁ、そういう気分の時ってあるよね」

ニコニコと笑いながら私の隣を歩く咲希は、何となくいつもより上機嫌で。

「なんかあった?」

「いやー?何もないよ」

「なにそれ」

隣にいる私まで笑顔になってくる。

「今日の体育。何すんのかなー?」

「え?んー、体力測定とかじゃない?」

「やっぱそうだと思う?私の腕の見せどころだね!」

ふふん!と笑う咲希。

運動できるって、ほんと羨ましい。

そんなこと思いながら教室に上がると……。

「あ……」

居た。

居る。

いや、クラスメイトなんだから当たり前なんだけど。

「あー!神崎ちゃんじゃん!おっはよう!」

ひょいひょいと机の間をすり抜けて、咲希が神崎さんに近づく。

「来るの早いね!」

ちょっと戸惑っている様子の神崎さん。

かわいいなぁ……。

「私、山内咲希!好きなものは甘いものと運動!よろしくね!咲希って呼んで!」

一気にまくし立てる咲希。

「はぁ……。よろしくお願いします」

「あとね、和ぁ!はよこっち来てよ!」

「え?あ、うん」

急に名前を呼ばれて、教室の入口に立ち止まっていたことに気づく。

「こっちは、三枝和。頭がめっちゃいいの!だから、勉強わかんなくなったら全部聞いてみ?完璧な答えくれるから!」

「ちょ、ちょっと……」

咲希の大げさな自己紹介に、私は少し慄く。

「そんなに頭良くないし……。私ができるのは文系だけで」

「大丈夫。和の説明わかりやすいから!」

「はぁ?」

なんのフォローにもなってないよ……。

「ごめんね、朝から騒がしくて……。とりあえず咲希、カバン置いてきてよ」

これ以上何か変なこと言われたらたまったもんじゃない。

私はそう思って、とりあえず咲希を自分の席に戻す。

「昨日は、教科書ありがとうございました」

「え?」

急に喋りかけられて、思わず聞き返してしまった。

「だから……。教科書……」

「あ、あぁ!いいよ!うん!全然大丈夫!!」

首と手を思いっきり振ってしまう。

こんなのただの挙動不審者じゃん……!

「あの、まだ教科書届いてなくて」

「あ、うん!大丈夫!届くまで一緒に見よう!」

むしろ一緒に見たいっていうか……。

なんと言いますか……。

「ごめんなさい……」

急に謝ってくる神崎さん。

「え、どうして?」

「だって、隣に私が居るから、三枝さん教科書ちゃんと見れないですよね?」

あぁ、そういう意味……。

「ちゃんと見れてるよ」

真面目な人なんだな、神崎さんって。

「むしろ、ごめんなさいより、ありがとうが聞きたいな」

思わず笑ってしまう。

「あ、ありがとう……」

「うん!」

なんとなく、神崎さんの性格が垣間見えた気がして、少し嬉しかった。

「改めまして、三枝和です。気軽に和って呼んでください」

「あ、えっと、神崎実佑です。よろしくお願いします、和さん」

……っ!!

これは……!

なんという破壊力!!

名前呼ばれるだけでちょっとあの……アレですね!!

「よ、よろしく」

心臓をバクバク言わせながら、私は笑顔の神崎さんに名前を呼ばれるようになりました……。