洋平と私が付き合って半年。
洋子にはすぐにバレて、
「えー!ずるい!合コンにも来ないし、出会いも求めてなかったのに、こんなイケメンと付き合えるなんて!」
と怒られた。でも、その後は幸せになってねと優しい言葉も言ってくれた。
「ねぇ、美月。もう半年じゃん。何かしなくていいの??」
洋平は休講で、友達と遊びに行ってるらしい。洋子と私は、久々の学食を楽しんでいた。
洋平と私は順調すぎるほどで、
「付き合ってからずっと離れないんだもん。寂しかったよ。」
と洋子にやきもちも焼かれたくらいだった。
「うーん。どうしようかって迷ってて。これまでの記念日もこれといって何にもして来なかったから…」
「え!?してないの!?何にも!?」
「う、うん…」
「おしゃれなディナーしたり、旅館行ったり。してないの!?」
「うーん。バイトとか講義で忙しくて大学でしか合わなくなったから」
「だめだよー?そんなんじゃいつ取られてもおかしくないじゃん。」
その言葉を聞いた私はどきりとする。
「う、うん…そーだよね…」
洋子は次の講義があるからとかけて行った。
なんでも気になってる先輩と同じ講義らしい。
「どーしよっかなぁ。」
「どしたの?そんな浮かない顔しちゃって。」
頭上から声が聞こえて体がびくりと跳ねる。
「え?なんで?遊んでたんじゃないの?」
「あーうん。友達が講義あるっつーから送りに来たんだけど、そこで洋子ちゃんに会ってここにいるって聞いたから。」
洋子ナイス!
「そっか…あ、あのね!私たち半年でしょ?なんか、今まで記念日みたいなのやってないなぁって思って。だから、ふ、2人でどっか行かない??」
やばい…誘うのとか慣れてないから声震える…
「ハハ!可愛いなぁ。いいよ。いこーよ。どっか。」
ドキッ!
笑顔が本当に拓海に似てる…
どうしよう。あれから5年も経つのに…
「どうしてるかなぁ。拓海。」
「…」
その時、洋平の顔が強張ったのを私は知らなかった。
[週末]
あれから2人で相談して遊園地に行くことにした。
バイトが入ってなかった土曜日。洋平は入ってたのに休んでくれたこと知ってるんだよ。
「お待たせ!待った??」
「いんや。へーきだよ?」
「ハハ!なんか、本当に恋人なんだなぁって実感する。」
「うん。そーだね。」
あれ?なんか元気ないかも…
「行こっか!」
「う、うん…!」
いつもの笑顔だ。気のせいだよね!
「高校生以来来てないなぁ。」
「うんだね。」
いつも一緒にいて話し途切れたことないのに今日は変に緊張して固まる。
「あれ乗ろう!」
洋平の細いのにガッチリした手首を掴んでアトラクションの方に連れて行く。
「い、いや、ほら、行ってきていいよ。」
「あれ?もしかして、こーゆーの好きじゃないの?」
やばい…見た目から真反対すぎて笑える…
「笑うなよ!…ごめんな。誘ったの俺なのに乗れないとか…」
「いやいや、大丈夫!笑笑洋平のこと知れたからいいんだ!」
ちょっと照れるけど、本当のことだから。
「これで秘密はないよね?」
「…」
え?なんでうんって言ってくれないの?
私の問いかけの後からさらに曇る顔。
「ねぇ?なにか隠してることがあるの?」
「…ごめん。」
嫌だ…この感じ知ってる…拓海が引っ越すって言った時と一緒だ。
「美月…ごめん。あのバカ父親が1人でアメリカ行くって言ってて。ついて行きたい。」
その瞬間、私の頭の中は本当に真っ白で、なにが起こったのかわからなかった。
「私は!?私はどうなるの!?」
「ごめんな。」
拓海はその問いかけには答えなかった。
今の私の頭にも昔の私の頭にもその嫌な「ごめんな」は鳴り響いた。
「…ごめんな。俺、隠してることがある。」
「嫌だよ…もう、どこにもいかないで…」
「そんなに兄ちゃんのことが好きだったんだね…」
え?
「辻拓海。俺の兄ちゃんだよ。」
「…え?ちょ、ちょ、ちょっと待ってよ。なにそれ?アメリカ行くって…」
「行ったよ。俺と兄ちゃんと父親で。」
じ、じゃぁ、帰ってきてるの!?
「…4年前、一旦、こっちに帰ってきたんだ。美月を最低な振り方して謝りたいからって無理言って帰ってきて、美月の誕生日に大げさなケーキ買って1人じゃ抱えきれないくらいプレゼント買って美月の家に行くつもりだったらしい。」
話が暗い方にいくのがわかる。
「それなのに、あいつまだ花買ってないって言い出して、美月は花が好きだからって花屋に寄ったんだよ。あの時、花屋に行ってなかったら巻き込まれてなかったかもしれないのに…」