8月下旬。課外授業で、伊豆に来ていた。2泊3日の泊まりである。部屋に入る人数は四人。海魅、歩、瞳。自分含め、四人。この四人組はなんだか心許ないと言われたが、ちゃんとしてないのは瞳だけだぞ。砂浜に敷かれた茣蓙に座る。息を吐き出して、目一杯吸うと潮の香りが胸に入ってきた。海は好きだ。だが、水着は着たくなかった。海魅に言い包められたのだ。見せたくないものがあるのなら、水に入っても大丈夫なパーカーがあるからと。前は閉めずに着ているが、なんだか変な感じがする。肌を潮風が撫でていく。潮溜まりにでも行くかな。「神海。」ビクッと身体を震わせる。「そんなにビクビクしなくていいじゃん」「あ、ああ。」海魅だった。少し割れた腹筋。スラッとした足。何とも言えない肉体美に言葉を失った。「す…すごいな…お前。」「ん〜?普通じゃない?」いや、普通じゃない。「どこ行くの?」潮溜まりと言うと彼は小首を傾げた。知らないのか。「満潮の時に被った岩場のとこに出来るやつだ。」「ふ〜ん…海、初めてだからさ。楽しみだったんだけど、君入れないって言うから。」一緒に入りたいのかこいつは。「潮溜まりなら。大丈夫だと思う…多分。」「…じゃあ行こう。」
潮溜まりは人がいなかった。淵に腰掛けて足を海水に付けようとするが、怖くて出来ない。「大丈夫だよ。ほら」パシャと海魅は潮溜まりに入る。「ほら…おいで。大丈夫。溺れないよ。」そう言う声色は優しい。自分の手を取って、誘う海魅。「大丈夫。」海魅は自分の目をしかと見て、言う。碧い目が輝いていた。足を恐る恐る入れる。「ひゃ!冷たい…」「怖い?」ふるふると頭を振ると彼は微笑んだ。「良かった。」こんな顔見たこと無い。胸が締め付けられる。「…神海。」「んあ?」「瞳から聞いた。過呼吸の事。」「…そうか」「怒らないのか。」「怒ってなんになる?どうもならんだろ?だったら怒らん。体力を消耗するだけだ。」手が伸びてきて腰に回った。「?!」「な、なに」碧い目が自分の瞳を捉える。「神海。俺はね。神海の事が好きなんだ。ひと目見た時から。一目惚れだよ。3つの事を君に誓うよ。1、愛してなんてもう言わせないよ。2、寂しいなんて言わせないよ。3、君と常にいよう。」彼はしっかりと腰を抱いて、そう言う。腰に回されている手にそっと自分の手を合わせる。「どうしたの?神海。」自分より大きい手を握る。「海魅…」碧い目を見る。もう少し海魅の方に寄る。顔を見たまま。唇と唇を合わせる。キャーキャーと叫ぶ声が耳の奥で響いた。
「遅かったね。」「帰ってくるの。」依と貴子にそう言われた。「そう?」しれっとしてる海魅。「なんで、開けてたのに閉めたの?」汐がそう言う。「寒くなってきたから。」身体弱ぇなと言う声が聞こえたが、無視だ。こいつらは知らなくていいんだ。自分と海魅だけの秘密。