浅葱の音がきこえる





「井上組長」

「山崎くん、お疲れ様。この子が昨日の?」

はい、と山崎さんが頷けば井上さんは優しい笑みを浮かべる。

あ、父さまに似てる。ここの人たち家族構成作れるんじゃないの?
なんて私は思ったりした。

「私は井上源三郎。源さんと気軽に呼んでくれるかい?」

「あ、は、はい!私はおとといいます!よろしくお願いします!」

声が裏返りそうになるのを懸命に抑えながら私は挨拶をした。
すると源さんはくすりと微笑む。

この人も新撰組のため、なのかな。
そうなら嫌だななんて私は思う。
そこまで思ってはっ、とした。

(「なにを言ってるの私は。別に、関係ないことなのに」)

はあ、と心のなかでため息ひとつついた。
優しかったり厳しかったり。
気づいたら疑うということを忘れそうな気がする。

「じゃあ私はこれから平助と交代だからいくよ。平助に挨拶はまだなんだろう?」

「はい、出くわしたら挨拶させようと思ってるんですが会えなければ昼か夜にでも」

「そうだね、夜勤だからそれもいいと思うよ。じゃあまたねおとさん。」

「は、はい」

井上さんが私たちの横を通りすぎていく。
すると険しい顔をしたままの斎藤さんが帰ってきた。

「斎藤組長……」

井上さんと会えば無表情でぺこりと下げている。
井上さんが出ていくのを見送り斎藤さんはこちらにきた。

「局長に聞いた。お前、阿古屋の者だそうだな」

「……っ、はい」

あまりに低い声にビクッとなりながらも素直に答える。

「ならば危害は与えない。だが私はいっさいそんな厄介な一族とは関わるつもりなんてないからな。あくまで今後の新撰組のためだ。お前は局長たちにとってもきっとそんな存在だろう。だから私には一切話しかけてくるな。いいな?」

「……はい」

「っ、斎藤組長!言い過ぎです!」

言い過ぎって、山崎さん。

あなたもさっき同じような言いかたしましたよ?
でも山崎さん以上に冗談だとはとても言いがたい酷い言葉。

……つらい。

涙が出そうになるのを我慢するのが精一杯だった。