「ほら、この前の…案外気に入ってるし」




何が照れくさいのかクシャ、と髪の毛を触りながらいう彼の言う“この前”のことを思い出す。



有村くんっていつも言葉が一つ二つ抜けてるんだってば。



この前っていつのことよ。


しばらく考え込んでいるとふと頭の中にある日のことが浮かび上がってきた。



あ!!分かった!!



あたしがふざけて“ふぅちゃん”って言った日のことだ!




「やっぱ、気に入ってたんじゃん。ふぅちゃん」



どっからどう見ても“ふぅちゃん”なんて可愛い要素は全くないけどね。



「……うっせぇ。」



「ほら、今度こそみんなとこ戻ろ?」



歩き出そうと、一歩踏み出したらふぅちゃんの手が掴かんでいた腕からあたしの手へと移動させる。



なに…!?



手、手繋がれるの…!?



マジで今日のふぅちゃんおかしいよ!?




なんて、一人でテンパっていると彼の手はあたしの手へと伸びてはきたものの、すぐに離された。



そのかわり、自分のシャツの裾をあたしにぎゅっと握らせて。




「これ…なに?」




スタスタと歩き始めたふぅちゃんに付いていきながら尋ねた。



もちろん、シャツの裾は掴んだまま。
なんか…離しずらい。




「…もう迷子にならねぇように。次はぐれたらもう探さねぇからな」




あたしの顔なんて見ずに真っ直ぐ前だけに視線を向けて言った。




「う、うん…ありがと」




どうせなら、手…繋いでくれたら良かったのに。



…ってあたしってば何考えてんの!!



なんかふぅちゃんにそういってもらえて嬉しいんだけど、


ちょっとだけどこかで手を繋ぐって期待してた自分がいたみたいで…少しだけ虚しかった。