「……風邪引くなよ」



頭の中で何度も自問自答を繰り返していると、有村くんは手に持っていたドライヤーをあたしに強引に渡し、その言葉を残すと、再びお風呂の方へ行ってしまった。


え、何が言いたかったの……?

『風邪引くなよ』ってどういうこと?

意味がわからなくて、首を傾げる。


でも、その言葉の意味は視線を落とした先にあるモノのおかげですぐに理解できた。


ドライヤーで髪の毛を乾かせってことね。


あたしはまだ髪の毛を乾かしていなくてまだ少し濡れている。


きっと、彼はそれに気づいてドライヤーを渡してくれたんだろう。


なによ、いつもはクールなくせに実は優しいんじゃん。


そんな優しさに何故か頬が緩む。


それから、ドライヤーでササッ、と髪の毛を乾かしてから筆箱からペンとメモ帳を取り出した。


ビリビリ、とメモ帳を一枚ちぎりとってそこに嫌いなものと好きな食べ物を書く。


えーっと、嫌いな食べ物は“ピーマン”と“焼き魚”っと。


好きな食べ物書けなんて言われてないけど、まあ、いいよね。

“フルーツ”と“お肉”っと。


女子でお肉が好きとかなんか引かれないかな……?

今どき、そんな子たくさんいるし大丈夫か。


まあ、相手は有村くんだしこれからも一緒に暮らすんだし包み隠さずに“素”の自分でいた方がいいよね。


そのあとはお風呂から出てきた有村くんに直接メモを渡した。


「誰もお前の好きな食べ物なんて聞いてねぇし……」


案の定、ブツブツと文句を言われたけど有村くんの真似をして“水沢スルー”をした。


────……有村くんってクールなくせに案外優しいんだね。


そんな事言ったらまた文句言われるから内緒にしていよう。

まだまだあたしは有村くんのことを知らない。
だから、少しずつ知っていけたらいいな。