「ほら~、あの有村くんとかどう?」


そういって、果歩は少し先にいる有村楓希(ありむら ふうき)の方へと視線を移す。


あたしもつられて、視線を移すとそこには自分の席に座って静かに本を読んでいる有村くんがいた。


彼の前には仲のいい友達の金田将司(かねだしょうじ)くんが椅子に座って笑顔で有村くんに話しかけている。


でも、有村くんの視線は金田くんには向いていなくて、ずっと本に向いたままだ。


そんなに本に集中しなくても……と思いつつも視線を果歩の方へと戻す。



「いやいや、あたしクールな人とかあんまり好みじゃないし」



なんか、クールな人って何考えてんのかさっぱり分かんないし、ワイワイ騒ぎたいあたしとしては……やっぱり性格が合わなさそう。


実際、有村くんも女嫌いだとかいう噂だし。



「そうだね。真心はどちらかというと金田くんタイプだもんね~」


「わかってるんなら言わないのっ!」


「ていうか!今日アレだよね!」



いきなり、話を逸らしたかと思えば、あたしの目の前にはニコニコと眩しいくらいの笑顔を見せる果歩がいる。


さっきの落ち込み具合はどこにいったのやら……。



「なに……?アレって?」



今日、誰かの誕生日だったっけ?

必死に頭を捻らせても答えは出てこない。

うーん……なんだろ。


「いやいや、もう忘れたの?昨日荷造りしてたじゃん!」



若干呆れたように果歩は言った。

荷造り……?
そのキーワードであたしの頭の中にやっと答えが浮かび上がってきた。



「あぁーっ!部屋移動のことね!」