『楓希…』



名前を呼ばれただけでも俺の心臓はドクンッと正直に反応する。


俺を見るなり、しょぼんと悲しそうに眉を八の字に下げる。


だけど、少し視線を下げると視界に入るのはキラキラとムカつくほど眩い光を放つ指輪がはめられている左手の薬指。


それを見るだけで、胸をえぐられるような苦しみに襲われる。



『どういうこと?

俺のことなんか好きじゃなかった?』



俺に笑いかけてくれた笑顔も



『好き』だと言ってくれたあの言葉も



優しくしてくれたあの温もりも



全部嘘だったってこと────?



『ごめんなさい。

でも、あたしたちもう終わりにしましょう』



それだけいうと、自分勝手に去っていった先生。


俺はその場に呆然と立ち尽くすしかできなくて別れの言葉が何度も頭の中でリピートされる。



俺は先生にもてあそばれていただけ…。



俺は、本気で好きだったのに。



俺の恋は最初から実ってなんかなくて、裏切りという罠によって一瞬にして散った。