『そうかそうか。智織、こう見えてもガラスのハートだから、色々助けてやってね』
その男は俺を見て目を細め優しくはにかむ。
そんな顔すんなよ……
助けてやって、なんて言うんじゃねぇよ。
呼び捨てなんかで呼びやがって……
彼氏ずらしてんじゃねぇよ……。
『…分かってます』
こんなこと言いたいわけじゃなかったのに。
もっと、取り乱してメチャクチャにしてやろうと思ってたのに。
そんな気持ちを飲み込み、俺は先生のためにいい子のフリを男の前で続けた。
でも、もうその場にいるのが辛くて嫌になって俺は走って家まで帰った。
家に着く頃にはいつの間にか頬に涙が伝っていて、自分は今悲しんでいるのだと分かった。
自分の気持ちが分からなくなるほど、頭が混乱していた。
浮気現場を目撃するなんて、マジでついてねぇわ。
でも、先生はずっと俺のそばにいてくれる…
そんななんの根拠もない自信が何故か俺の中にあって、深く考えるのをやめて次の日の朝を迎えた。



