「お前らわかってるか。もう受験生だぞ、受験生。だからな、部活も大切だが、ちゃーんと勉強と・・・」



授業終わりに近付いたら先生が必ず言うセリフ。



「4月から勉強始めるのは、本当は遅いんだぞ。先生が受験生の時はなぁ・・・」



そう、これもお決まり。


先生の思い出を懐かしげに語る時間。

生徒内だけに伝わるその時間の名前は、通称 メモリーズタイム。




そうなると、待ってました、とでも言うように



生徒は教科書とノートを閉じる。



机に顔を埋める。



帰る支度を始める。





そして、タイミング良く授業終わりのチャイムが鳴り響く。



「おっ?もうこんな時間か。終礼するから帰る支度しろよー」



そう言って、ふわっと授業が終わる。




高校3年生の春が始まってもう1週間。


お決まりの時間になって、私もみんなと同じように帰りの支度を始めたうちの1人だった。






私、浜風香央(はまかぜ かお)は、

このゆるーい私立校、泉寿高校の3年生。



先生の言ってる通り、受験生、ってことになる。


でも、進路はまだはっきり決まってないし、受験って言うのもピンと来ない。



頭がいいわけじゃないけど、悪いわけでもない。



スポーツするよりは音楽聞いたり、写真撮ったり、お菓子作りをしたり、お散歩したり。



ゆったりする時間が好き。



友だちは、どちらかというと、多い方だ・・・と思う。



人の笑顔を見るのが好きで、ついつい余計なことまで首をつっこんでお節介しちゃう性格。




彼氏・・・はいないけど、それなりに毎日充実してる。



そう、私は、察しの通り、


ごくごく普通の女子高生。






「終礼始めるぞー。席につけー」



ざわざわしてた教室が、徐々に静かになる。


明日の連絡と、掃除当番の確認、受験の話を簡単に聞いて、終礼が終わる。



「起立。礼」


「「さよーならー」」


間延びした今日の終わりの挨拶も、

いつもと何ら変わりない。




「ふぅ・・・」


今日も、1日終わった安堵から、私は軽く息を吐いた。



そこに駆け寄ってくる影。


「香央っ!!帰ろ!!!」


勢いよく笑顔で私の元に来たこの子は、大切な友だち。


相川 圭音(あいかわ けいと)。




・・・男の子みたいな名前をしてるけど、


圭音もごくごく普通の女の子。



「圭音ごめん・・・私部活行かなきゃ」



顔の前で手を合わせて今日一緒に帰れないことを伝える。



「えぇー・・・写真部?あ、なんかコンテストあるんだっけ?」



「そう。6月にね。だから打ち合わせしてこないと」


そう言って立ち上がる。


仕方ないか、っていいながらしゅんとする圭音に、



「圭音?玄関まで一緒にい・・・」


「行くっ!!!!!!」


私が言い終わる前に、言いたいことを察して、嬉しそうに言葉を重ねる。




一緒に教室を出て、玄関に着くまでの間、圭音は沢山のことをまとめて話してくれた。



彼氏のこと、

後ろの席の子と仲良くなれたこと、

来月オープンするカフェに行きたいってこと、

私と圭音が好きなアーティスト、〝monotone〟のライブチケットが当たったこと。



圭音と一緒にいたら、どんなに気分が落ち込んでいても、笑顔になっちゃう、太陽みたいな子。



「圭音、また話聞かせてね。明日ね、ばいばい」

「うん!香央ばいばいっ!」



笑顔で圭音を見送って、私は写真部の部室を目指した。