「……手当て、しよう」 呆然と立ち尽くす俺に、彩夏がそう言って袖口を引いた。 でも俺は、辺りがオレンジ色になるまでそこから動けなかった。 *** 家にはいると、彩夏の声も聞かずに自室に入った。 由紀に別れようって言われただけで、母さんみたいに病んでしまいそうだった。 自然と涙が流れてきて、目元を拭った手が、ピリッと痛んだ。 由紀につけられた引っ掻き傷。 それすらも愛しく思えた。