「………そう、た?」
俺に気付いて、浴槽のなかで稲穂が顔をあげる。
服を着たままだったので、少しホッとした。
……いや、なんで服着て風呂入ってんの?
俺は風呂場に入って、浴槽のなかで三角座りする稲穂を見た。
すると、栓をしていないから排水溝に流れていく水に、赤いものが混じっていることに気付いた。
「い、稲穂……!?」
だらんと力なく垂れた左腕を掴みあげると、折角塞がっていた傷口に、また切り傷ができていた。
血がだらだらと流れている。
右手に握ったハサミで切ったみたいだ。
俺はシャワーを止めて稲穂を抱えあげて、テーブルの前に座らせて、今自分が着ていた上着で傷口を押さえさせた。
自分で止血してる間に、救急箱など必要なものをテーブルに置いていく。


