他にも言いたいことはあったけど、稲穂の顔を見てたら何を言っていいかわからなくなって。
ただ彼女の頭をそっと撫でて、晩御飯を作るために立ち上がった。
「ほら、食べろ」
テーブルに皿を置くと、稲穂は少しだけ顔をあげる。
今まで一人だったし、あんま手の込んだ料理なんて作ったことなかったから、市販のルーでカレーを作った。
カレーなら量がわからなくて作りすぎても色々アレンジできるし。
稲穂はじっとそのカレーを見つめて、動かない。
俺は稲穂の向かい側に座ってスプーンを持つ。
「見てないで食べろよ」
「………」
カレーを見ていた目が俺に向けられる。
“食べてもいいの?”とでも言いたげなその目に答えるつもりで、稲穂にスプーンを握らせる。
「あったかいうちに食べようぜ」
そう笑いかけると、稲穂は少し頬を赤らめて頷いた。


