「蒼太は、医大生なんだね」
本棚に並べた大量の医学の本を指差しながら、さっきと変わらないテンションで稲穂が言う。
それに頷いて、鞄を部屋の隅に置く。
鞄から水筒を取り出して、軽く洗ってから洗い物用の籠にいれて水を切る。
稲穂の手を引いてテーブルに座らせて、稲穂に向かい合って座る。
「……電気つけないとダメだろ?」
「なんで?」
「目が悪くなる」
「………その方がいい」
稲穂は長い睫毛を伏せて俯くと、膝の上で拳を握った。
……またか。
稲穂はすぐにこの世の終わりみたいな顔をする。
常に無表情でピクリとも笑わないし、声からも感情が読み取れない。
何とかしてやりたいのに、なんにも話してくれないからどうしていいか分からない。
俺の声が届いているのかすら、よく分からない。


