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バイトを終えて、カフェを出る。
稲穂が心配で、小走りで家に帰って、自分の家の扉の前で一度立ち止まった。
扉の横にある、玄関入ってすぐのキッチンの真上の窓は真っ暗だ。
もしかしたら出ていってしまったのかもしれない。
それか、寝てるとか?
後者であることを願いながら、鍵を開けて扉を開ける。
「稲穂?……寝てる、のか?」
呼んでも返事はない。
真っ暗でなにも見えないから、電気をつける。
「いな―――っうおぁっ!?」
眩しくて目を細めながらもう一度稲穂を呼ぼうとすると、本棚の前に稲穂が立っていた。
一瞬幽霊かと思って叫んでしまった。
ゆっくりと、稲穂が振り返る。
「……おかえり」
「た、ただいま……」
無表情のまま抑揚のない声で言われたので、苦笑いを浮かべながら返事をする。


