ピピピピ…。ピピピピ…。


頭の上で目覚ましの音が鳴り響く…。

ねむぅ…。私は、もぐりこんだ布団から手だけを出して、手探りで目覚ましのボタンを壊れそうな勢いで叩いた。


「だれだよー?夏休みなのに目覚ましかけた人は…。」

寝ぼけながら、布団にくるまったまま言う。


「お前だよ!」


バサッ



勢い良く布団が脱がされる。


閉じていた目をおもむろに開けると、
幼なじみの岩瀬 大翔(いわせ ひろと)が立っていた。

「あぁー。ひろとおはよー…。」


「おはよーじゃねーよ!いつまで寝てんだよ!アホ!」

「朝から人の家来て騒がしい奴やなぁー。」

目をこすりながら、おもむろに起き上がる。


私の名前は、堀野 千奈(ほりの ちな)。中学2年生の夏を迎えている。

そして、この遠慮も配慮ない勝手に木をよじ登って窓から2回の私の部屋に入ってくる、野生の猿みたいな男は私の幼なじみだ。
私は大翔の事を『ひろと』と呼び、ひろとは、私を『ちな』と呼ぶ。

ひろとは、アチーッと白いTシャツををはためかせる。

ちょっと、寝癖の残った黒髪。白いシャツに黒の半パン、ちょっと焼けた肌。昔からひろとは、こういう感じだ。おっきな黒目で屈託なく笑う。見るからに汚れのない素直な男子中学生という感じだ。もう、何年間もほぼ毎日顔を合わせているから、イケメンかどうかとかわからないけど、ひろとの爽やかさは近所でも評判だ。

「とりあえず、私今から着替えるから。」

「うん。」

床にあぐらをかく、ひろと。

「だからー!着替えるって言ってるでしょ!出てけ!」

「え?あー!別にお前の着替えなんて見てもなんとも思わんのけどやなぁ…。」

そう言って、よっこいしょとジジくさく立ち上がる。

「下で待ってるから、早くしろよー」

と、ドアから出て行った。


はぁ…。

本当にデリカシーのない奴…。それに、入ってきた、窓は開けっ放しだし…。

私は、窓に近づく。

窓から見える景色は、いつも変わらない。
目の前には、畑に田んぼ。遠くに見える山は、今の夏の時期は青々としている。
そして、絶え間なく鳴り響く蝉の声。毎日、このやかまし過ぎる音を聞いていると、ノイローゼになりそうだ。
ここは、本当に田舎。

コンビニなんて名前だけで9時に始まるし、コンビニスイーツなんてオシャレなものはないコンビニ。しかも家から徒歩30分。
電車も1日3本。しかも駅は無人だし…。車がなければ買い物にもいけないし、車に乗ったところで、オシャレな服を買うなら3時間かけて山を超えないといけないから、その辺の服屋さんで買うしかない。
夜は夜で、蛍とかは綺麗だけど蛙はうるさいし普通にコウモリが飛んでるし、懐中電灯ないと外歩けないし、鹿やイタチ、イノシシとかが普通に出る。
でも、方言だけは軽めだけどやっぱり方言混じりだなと思う。

でも、私は、結構ここが好きだ。




幼い頃、4歳くらいまでは都会に住んでいた。きらびやかだったしなんでも歩いていけるところにあった。人もたくさんいたし賑やかだったと思う。あんまり空気が綺麗じゃなかったから、私は、喘息で入退院を繰り返していた。
それを心配した、親が祖父母の家があるここに私を連れてきた。

ここには、腕のいいお医者さんもいたしなによりも空気が綺麗で、すべてがみずみずしくって、いつの間にか私の喘息は治っていた。


そんな事を考えながら、窓を閉めて、カーテンをきっちり開ける。
タンスから、ぐちゃぐちゃに入れてある黒に白の二本のラインが裾に入ったワンピースを引っ張りだし、頭から着る。
ワンピースって、動きづらいけど着るのが楽なんだよなぁ…。
それに、黒のワンピースは汚れがわかりにくいしね。



私は、おばあちゃんが女の子なんだからと言ってプレゼントしてくれた、大っきな鏡の前に座る。そして、私のおへそと同じくらいの長さまである色素の薄い茶色ぽい柔らかい髪をクシでとかした。

めんどくさがり屋の私だけど、小さい時から憧れている人がいてその人が腰よりも長い髪をしていた。

だから、私も真似して小さい頃から伸ばしているんだけど、私の髪は伸びにくいらしい。

私は、とかした髪を耳の高さで2つに適当に結ぶ。

これでよし!


私は、ドアを開け階段を駆け下りた。