だけど。ここで逃げたり、ギクシャクしたりしたら絶対にあとでもっとひどい拗れを起こすだろう。
 
 他にも友達はいるけれど、有紗は有紗で代わりはいないのだ。だからそれだけは嫌だ。絶対に嫌だ。

 ピンチを打開するには、自分から動かないといけない。まずは席を立って、彼女のところへ向かうことにする。

 思っているよりのろのろとしか体が動かなかった。ため息をつきそうになりながら、ぐっと堪えて重たい体をひきずる。

 右手と右足が同時に出そうなくらい緊張した。普通の歩き方って、どうやるんだっけ。

 まるでロボットみたいにカクカクした動きで有紗に近づく。彼女は座ったまま全く動いていなかった。


「有紗」

 名前を呼ぶ。と、ぴくり、と体が反応した。
 あたしの声も震えていた。
 でも有紗は振り向かない。


「有紗、聞こえてる?」

 ぶんぶん、頭を降る彼女。
 聞こえてるじゃん。無視しきれてないよ。

 あたしはちょっと考えた。
 おそらくあたしの顔を見るのが、有紗も怖いんだ。でも無視出来るほど有紗は強くなくて、結局あたしに気を遣ってる。
 
 なんだ、お互い様か。

 それで全く、有紗は優しすぎる。

 そう思ったらなんだかおかしくなって、思いっきり吹き出してしまった。

 びっくりした顔でようやく、有紗がこちらを見る。
 そうだよ。これでいい。

 色々考えるより、やましい事は一つもないんだからいつも通りにしてればいい。
 

「なに辛気くさい顔してんのよ。せっかくのかわいいお顔が台無しよー。はい、ご飯食べよ」


 わざと明るく言って肩を叩くと、明らかにほっとした表情で有紗が頷いた。

「ごめんね。色々考えちゃったでしょ。先生の勝手な誤解だからね」
「……うん」

 まだあんまり納得はしていなさそうだけど。
 とりあえず最初の1歩はクリアした。