愛する人、愛される人






これはまずい。すぐにでもここから逃げ出したい。






腰まである長い金髪をなびかせて下をうつむく少女が一人、学校のある場所の前に立たされていた。

ー目の前の看板には『校長室』と書かれたプレートがある。ー

海のような青色の瞳には、不安と…微かにだが怒りが入り混じった困惑の色が映る。




(今度は何をやらかしたって言うのよ…)




はあ、と大きな溜息を一つつく。

今月だけで、校長室の前に立つのはこれで4回目だ。
すべて合わせるとすでに数えきれないほど呼ばれた。


ーーーいや、アイツのせいで呼ばれている、と言った方がいいかもしれない。


今の現状に腹を立てながらも「中」に入っている人を待つ。


(あいつはどうやったらまともになるのよ…)


呼ばれて30分がたつ。そろそろ出てきてもいいんじゃないか。


そんな考えが頭をよぎった時だった。




「待ちなさい!!!話はまだ終わってませんよ!」

「知るかババァ!どうせ同じようなくっだらねぇ説教だろうが‼」


担任の先生の金切り声の後に、口悪く少年がののしりながら校長室から出てきた。


「もういい帰る!」


少年は大きな音を立てながら扉を閉めた。

「今度からこんなとこに呼ぶなよな!!!」

ふん、と顔をしかめ、校長室に舌を出す。
そして脇にいた私に気づき、「おう」と右手を上げてきた。

「よう、こんなとこで何してんだ」

そのセリフを聞いて、私は堪忍袋の緒が切れ、荒々しく言い放った。


「アンタのせいでしょ!この馬鹿シオン!!!これで何回目だと思ってるの!?」










シオン、と呼ばれた少年は機嫌が悪かった。

(なんだよアンナの奴、そこまでキレなくてもいいだろ)

彼女と同じ金髪をくしゃくしゃと撫でまわす。
青色の目を曇らせ、むすっとする顔は隣にいる少女と瓜二つだった。

「ねぇシオン。アンタには学習能力がないわけ?前も同じようなことで怒られたよね?」

「同じじゃねぇよ。この前はゴキブリ、今日はムカデを使ったんだよ」

「バッカじゃないの!?!?先生の靴に虫を入れるイタズラなんて…ただの馬鹿じゃない!!」

「馬鹿馬鹿うるせぇ!!!自分がいい子ちゃんだからって、あんまりグチグチいうなよな!!」

大通りから少し離れた住宅地の道沿いで言い争う二人を、近所の中年女性がにこやかに見ながら通り過ぎる。

「きょうも仲がいいわねぇ」

「「どこがそう見える「んですか?!「んだよ!!」」

ハモる二人をうふふ、と笑い流し、じゃあね。と言い残し女性は去っていった。










アンナ・ジェイドとシオン・ジェイド






アメリカのボストン州に住む、14歳の双子の彼らには両親がいなかった。

理由は分からない。


ただ、2人が物心付くころにはすでに両親は他界しており、小さい頃から親戚の家を渡って過ごしてきたのだ。

何度か孤児院に入れてみたらどうか?という立案が上がったが、それはうまくいかなっかた。


双子の弟、シオンが何かある度にイタズラというイタズラを仕掛け、先生たちを困らせてきたのだ。

また、双子の姉の方、アンナに至っては「親がいない」という理由をつけられ、元々の内気な性格のせいもあってかいじめられるようになっていた。


どこへ行っても「迷惑者」扱いをされる2人は、世間にひどい嫌悪感を抱いていた。



そう、今日の真夜中に起こる彼らに襲いかかった出来事に対しても、だーーーーー