私は、老人をみた。
何を言い出すのだ。
こんなボケた老人にかまっている自分が、
バカらしくなってきた。
「会いたい一心でここまで来たのじゃな。
痛いほど気持ちが伝わるぞよ。
じゃが、あなたはもう、撃たれて、死んだ」
辛かったろう、という老人は、
静かに涙を流していた。
私はその場から去ろうとしたら、老人が裾を引っ張った。
「何よ!」
その手をはね返すと、老人はよろめいてこけた。
さすがに起こそうとして屈(かが)むと、
通りすがりの人が、老人を踏んづけた。
私は声をあげそうになったが
しかし、その通行人の足は、
まるで空気のように老人の身体を通り抜けたのだった。


