来たことのない高級レストランで、高級なフレンチ料理。


ホークとナイフ使えるかな。


手が震えてきた。


目の前にお箸が並ぶ。


「大丈夫ですよ。僕もお箸の方がたべやすいので、用意させました。」


ありがとうございます。


その笑顔に今このレストランにいる女性全員を、敵に回した気がしてならない。


美味しいはずの料理の味がわからないのだ。


だって、こんなお料理を食べたことがないし。


味が薄いのだろうか。


濃い味の母さんの料理ばかりを食べてるせいなのかも知れない。


「お口に合わないですか。」


いえ、違うんです。


これはきっと育った環境の違いだと思うのですが。


「ごめんなさい。高級過ぎて味が分りません。だからもう、」


え、どうしたの。


葛城社長が席を立って私に近づく。


そして、すみませんと謝った。


何が起きてるのでしょうか。


みんなが見てると言うのに。


「場所を変えましょう。はなさんがいつも行くお店に行くべきでしたね。」


いえ、違うんです。


「あの大丈夫ですから、座って下さい。多分美味しいんだと思うのですが、緊張してしまって、改まってこう言う食事をしたことがなくて。」


葛城社長は又笑顔で私の手を取り、立たせた。


「はなさんのよく行くお店は何処ですか。」


だから、もういいんです。


「このまま帰すつもりはありませんから。」


え、その笑顔が怖くなりました。


私がよく行くお店はファミレスだと伝えると、そこへ行くことになってしまい、葉山さんが運転する車に乗り、行きつけのファミレスへ向かう。


葉山さんにすみませんと言うと、大丈夫です、社長の我儘に、付き合わせてるんですからねと言われた。


葉山さんも葛城社長もファミレスは初めてらしくて、落ち着かない様子が何だか面白い。


二人には案内された席に座ってもらった。


でも、飛び出してしまった高級レストランの方は大丈夫だったのか。

心配になる。


葉山さんがあのレストランも社長が経営者だから、何も問題はないと言う。


ごめんなさいともう一度頭を下げた。