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女の子は恋をすると可愛くなるなんて、誰が言い出したんだろう。

ドロドロに溶けたチョコレートを混ぜながらつまらないことを考えていると、ブブブ、とポケットの中でスマホが揺れた。


「っと、電話? お母さんかなあ……あ、切れちゃった」


試作品を作り終えてからかけ直そうかな、なんてちょっと面倒に思いながらも静かになったスマホの電源をつける。


「えっ⁉︎」


ーー〝コウキくん〟

画面に表示されたその名前を見て、さっきまで濃厚だった「あとでかけ直す」なんて選択肢は一瞬で論外になった。


「わあっ、え、どうしたんだろ⁉︎」


だって、迫り来るその日に向けて今も試作品なんて作っちゃってた、本人からの電話。こんなのたった数十秒だって我慢していられるわけがない。


「あっ、もしもしっ! どうしたの、急に!」

『うわ、今日は元気だな』

「今日はってなに〜! いつも元気だもん」

『なに言ってんの。ちょっとしたことでヘコんで毎日のように電話してくるくせに、泣き虫』


意地悪く笑う声が電話越しに伝わって、きゅうっと胸が苦しくなる。うわあ、もうすき。めちゃくちゃすきだ。

自然と笑みがこぼれちゃって、私いますっごく気持ち悪い顔をしているんだろうなと思う。 でも、顔を引き締めてみてもすぐ緩んでしまうんだからもう仕方ない。

「ほかの人の前では泣かないよ、絶対」