私はいつもこの瞬間、一分先の未来を予知する能力でも身につけたような錯覚におちいる。

初めのうちはこの能力を使うと、強く心臓を絞られているような気分だったけれど、今はもうそれもほとんどない。あと数回もすれば、きっとこの痛みも完全になくなってしまうんだろう。


「じゃあ頑張って一人で作るね!」

「そんなに気負わなくても毎年十分おいしいじゃん」


クス、と小さく笑った顔があまりにも彼女らしくなくて、それでいて彼女らしくて。


「そんなこと、ないよ」


色がぶつかって、混ざり合って。みるみるうちに真っ黒になっていく。彼女の穏やかな笑顔は、私を歪で醜い物体に変える。

どうしてそんな風にやわらかく笑っていられるの? 馬鹿じゃないの? 私はこんなにも汚くて崩れそうな笑顔しか作れないのに、まだそんな余裕があるの?

ーートドメを、刺さなくちゃ。 ふと浮かんだその言葉が私を支配する。


「今年は、渡したい人がいるから」


伏し目がちにたっぷりと深い意味を込めて言うと、彼女は「そうだね、頑張って」と下手くそに笑った。 泣きそうな顔をしたのは、見逃さなかった。

もっと困ればいいのに。いつかの私みたいに、家に帰ってひとりで泣いちゃえばいい。そう願う反面、また、心臓がぎゅううと絞られるのを感じた。

ああ、この痛みが消えるには、やっぱりまだもう少し時間がかかるのかもしれない。 そんなことを思いながら、私は真っ黒なままで囁いた。


「応援、しててね」