「珍しいねえ。 カナちゃん、今年は誰か渡す人でもいるの?」

「えっ、いや……毎年、友だちみんなに渡してるじゃん」


ゆるやかに口角を上げる私から、彼女は何でもないふりをしてほんの少し目線を逸らす。


「ずっと市販の十円チョコだったじゃない。 今年は手作りを配るの? 初めてじゃない?」

「どうしようかなって考えてるだけだし、たぶん作らないから。そういうの、苦手だし……面倒だし」

「えー、もったいないよ。せっかくだから作ればいいのに! 来年は受験生だからたぶん作れないよ? あっ、何なら一緒に作ろうよ、私教えるよ〜」


いつもよりもさらにワントーン高くなった自分の声がキンキンと響く。頭が痛い。


「別にいいから。今年も十円チョコにするし」

「ええ〜そうなの? 何作るか一緒に考えてほしかったのに」


諦めきれないように「ほんとに作らない?」ともう一度上目で聞くと、少し間を置いて「作らない」と小さな返事が返ってくる。


「そっかあ……」


知ってたよ、言われなくたって。

その言葉が返ってくるのも、あなたが何かを押し殺すようなその表情を見せるのも。今なにを思っているかだって、きっと。すべてわかっていた。

そう言いたくなるのを「残念」なんて、思ってもいない言葉で閉じこめた。