ビターチョコレート二枚に、卵は三つ。バター60グラムと砂糖は……何グラムだったっけ。いつもよりもだいぶ少なくしたけれど、忘れちゃった。
何回も作ったはずなのにおかしいな、思い出せないのはどうしてだろう。
でも確かに覚えているのは、隠し味。混ぜ込んだのは、猛毒のように歪で醜い嫉妬と溢れるほどの重たい愛情。
「……っ、にが……」
甘いものが得意じゃないコウキくんに合わせて作ったそれはいつもよりだいぶ苦くて。大の甘党の私は、口に合わないなあと顔をしかめながら作った。
だけど、今はその苦さがおいしいようなそんな気もする。
気のせいかもしれないけれど、今なら全部食べきれる気がして、私はそれをひとつ手に取った。
空っぽになった淡いピンクをしばらく見つめて、終わったんだなあと思った。
食べ終わったガトーショコラはやっぱり苦くって、少ししょっぱくて、食べきるのに少し時間がかかってしまった。
「……あれ」
ずび、と鼻をすすりながら、スマホに通知が2件来ていたことに気がつく。マナーモードにしていたから全然気づかなかった。
送り主を見て、げ、と思う。
「コウキくん、と……カナちゃん」
コウキくんはまだわかるにしてもカナちゃんからこのタイミングでメールが来ているなんて。



