「うっ……く、」
情けない声が漏れる。
涙はまだこぼしていなかった。だから、必死でそれが頬を伝っていくのを押し止めて、こぼれ落ちる前になかったことにした。
「ださ、」
渡せるはずがなかったチョコレートをバッグから取り出して。精いっぱい口角を上げてみたけれど、どうしたって自嘲するようなそれにしかならない。
バレンタインには少し早いけれど、コウキくんに誘ってもらった今日なら素直な気持ちを伝えられるような気がして、こっそりとバッグに入れていたんだ。
リボンを解いて、淡いピンクのそれを取り出すと、甘ったるく詰められた私の気持ちがカカオのほろ苦い香りとともに鼻腔をかすめた。今の私にはとても耐えられないものだ。
こんなものゴミ箱に全部捨ててしまおうと部屋の隅にあるすぐそこまで近づいて、思い留まる。
「……いーや、食べちゃお」
ベッドに体を預けて、真っ白な天井を見つめながらひとつそれを口に運ぶ。
ロールケーキは試作を見られちゃったからどうしようかなって悩んだ末に、結局定番に落ち着いたガトーショコラ。フォークをキッチンまで取りに行く気にもなれなくて、そのまま手で鷲掴みにした。
パウンド型に焼いて二センチ程度の厚みに切られたその断面はしっとりとしていて、指にべったりとまとわりつく。だけど、そんなことを気にすることもなく私は黙々とそれを口に運び続けた。



