「ちょっと聞いてる?」


ツン、と相手を突き放すような話し方。 ずっと変わらないだろうと思っていたそれが、最近になってじんわりと女らしさを含んでいるように感じるのは気のせいなんかじゃない。

らしくないよ、気持ち悪い。色気付いてるつもり? ずっと幼いままでよかったのに。そうしたら、そうしたら……。

毒に浸された言葉を吐き出しそうになるのを、私は薄っぺらい笑顔で押し込めた。


「ごめんね、なんだっけ?」

「だから、この雑誌のー……」


話しながら、私よりも20センチほど長い目の前のスカートを無意識に目で追っていたことに気がつく。……ああ、だめだ。


「ねえ、ほんと聞いてる? トウカ」

「っあ、ごめんごめん。なんて言ったっけ?」


慌てて目線を上にすれば、小さな顔にお手本みたいに綺麗に置かれた目、鼻、口。ニキビひとつないきめ細かな肌と、絹のような短い黒髪がうざったらしかった。


「……なんかトウカ、最近変じゃない?」

「そんなことないよ」

「ふーん、ならいいけど」


一瞬ぎくりとしたけれど、彼女は本当に私のことなんかもうどうでもいいみたいですぐに話を再開した。 私はといえば、彼女のどこを見ても平常心でいられない気がして、彼女の持つ雑誌にぼんやりと焦点を当てた。

……へえ。バレンタイン特集、ね。 今まではそんなの面倒だとすぐに話題を終わらせていたくせに、今日は随分と楽しそうだ。