隊長は、介錯はいらない、自分だけでさせてくれと言い、どこかに向かう。逃げないように後を追った。

隊長が立ち止まった。崖があり、ここから飛び降りるらしい。

「隊の皆に、ありがとうと言っておいてくれないか」

私の方を振り向いて、穏やかな表情で言った。声も、休息している時の部下が聞く優しい声だった。

最後に聞けてよかった。もう雑談することも、活躍することも出来ないのだから。

「それと、最後に……」

他にも言い残したことがあるらしい。そういえば、次の隊長のことはなにも言ってなかったな。もしかしたらその事かもしれない。


「隊長は、エミリア。副隊長はお前にやってほしい」

副隊長のエミリアさんを選ぶのは妥当だ。しかし、私は……。
この隊長だったから活かされた。エミリアさんも出来なくはないけれど最初は扱いに困るだろう。
一つのことにしか集中出来なくて、自分が生き残ることに精一杯で、地味な仕事でも役に立つと思ったら喜んでやる私のことをすぐにわかってくれたのは隊長だけだ。

私は隊をまとめることなんてできない。私は、優秀な人間じゃない。

「無理だと思うなら他の人を選べ」

私の気持ちを察したのか、真っ直ぐ崖の方を向いて言った。

隊長が一歩を踏み出した。ついにこのときがきたと思った。
すると、隊長が少し立ち止まり、何かを言おうとする。

「六班に言い残したことがある。実は、とある貧弱な副班長と町で会ったことがある」

とある貧弱な副班長、それは私だ。そんなことを新兵に言ってどうするんだ?それに、町で隊長と会った覚えなどない。


そして隊長は、一瞬で飛び降りた。